この記事はこんな人におすすめ:
仕事で移動中、または出勤・帰宅途中に交通事故に遭った人
相手方の自動車保険と労災のどちらへ相談すべきか迷っている人
労災の届出や、相手方との示談で注意する点を知りたい人
仕事中・通勤中の交通事故は、業務災害・通勤災害に当たれば労災保険の対象になります。 相手方がいる事故でも、労災の利用を検討できます。ただし、仕事や通勤との関係を確認し、自賠責などから受ける支払いとの調整や、第三者行為災害の届出を進める必要があります。この記事では、勤務先に雇用されて働く人を中心に、制度の違いと事故後の確認事項を整理します。
目次
仕事中・通勤中の事故で労災を検討する場合
相手方がいる交通事故でも労災は利用できる?
労災と自賠責はどちらを先に使う?
第三者行為災害届と給付請求の進め方
相手方と示談する前に確認したいこと
まとめ:事故の経緯と保険の支払状況を整理する
仕事中・通勤中の事故で労災を検討する場合
業務災害と通勤災害を区別する
労災保険では、仕事を原因とするけがなどの「業務災害」と、通勤によるけがなどの「通勤災害」が問題になります。
たとえば、業務のための移動中に遭った交通事故と、出勤・帰宅途中に遭った交通事故では、確認する事情が異なります。事故の時間だけで判断せず、移動の目的や業務との関係を整理しましょう。
整理すること | 確認する内容の例 |
|---|---|
仕事との関係 | どの業務のために、どこへ向かっていたか |
通勤との関係 | 出発地・目的地、出退勤時刻、普段の経路 |
実際の移動 | 事故当日の経路、交通手段、寄り道の有無と目的 |
事故の状況 | 発生時刻・場所、相手方、けがの内容 |
これは事実を整理するための例です。表の内容だけで労災認定が決まるという意味ではありません。
通勤途中の寄り道は事情を確認する
通勤災害では、就業に関係する移動を合理的な経路・方法で行っているかが問題になります。経路を外れたり、移動を中断したりした場合は、原則としてその間とその後の移動が通勤に当たらなくなりますが、例外もあります。
「寄り道をしたから必ず労災の対象外」と決めつけず、目的、場所、時間、その後の経路を正確に伝えてください。 判断に迷う場合は、勤務先や労働基準監督署へ相談しましょう。
相手方がいる交通事故でも労災は利用できる?
第三者行為災害という扱いがある
業務や通勤による災害が、事故の相手方など第三者の行為によって発生することがあります。このような事故で相手方に賠償義務がある場合には、「第三者行為災害」として手続きを進めることになります。
相手方が自動車保険に加入していることだけで、労災を利用できなくなるわけではありません。 労災の対象となる事故かどうかと、相手方の保険が何を支払うかは分けて確認します。
相手方の任意保険会社が治療費の対応を始めている場合も、勤務先や労働基準監督署にその状況を伝え、利用する制度と手続きを整理してください。
労災がすべての損害を補うわけではない
指定の専門書では、労災と自賠責には給付対象や支払範囲の違いがあることが説明されています。たとえば、慰謝料は労災保険の給付対象ではありません。
そのため、労災を利用したからといって、相手方への賠償請求がすべて不要になるわけではありません。労災で補われた部分と、補われていない損害を分けて考えます。
ただし、自賠責にも支払対象や限度があるため、労災で支払われなかったものが無条件ですべて自賠責から支払われるという意味ではありません。
労災と自賠責はどちらを先に使う?
先に利用する制度は事故の事情に応じて検討する
指定の専門書では、自賠責を先行させる原則的な取扱いを説明する一方、被害者が希望する場合には労災の給付を先行させることもできるとしています。
したがって、「必ず自賠責を使い切ってからでないと労災を使えない」と考える必要はありません。 どちらを先に利用するかは、給付範囲や事故の状況を踏まえて相談します。
確認したいのは、次のような事情です。
相手方と事故の責任や過失割合について争いがあるか
治療費が高額になる可能性があるか
すでにどの保険から、何の費用が支払われているか
治療費以外に、休業や慰謝料などどのような損害があるか
書籍では、被害者側の過失が大きい場合、責任・過失割合に争いがある場合、治療費が高額になる場合などに、労災先行が適切となることがあると説明されています。一方で、どの事故でも一方が有利と決められるものではありません。
同じ損害を二重に受け取る仕組みではない
労災と相手方からの賠償については、同じ損害を補う部分の調整が行われます。両方へ請求できる場面があることと、同じ治療費などを二重に受け取れることは別です。
もっとも、すべての支給額を機械的に差し引くわけではなく、特別支給金のように支給調整の対象とならないものもあります。最終的な金額は、支払名目を確認して整理する必要があります。
支払通知書や給付決定の通知は保管し、「いつ・どこから・何の名目で・いくら受け取ったか」を記録しましょう。 窓口へ他の支払いを伝えずに、それぞれで同じ費用の請求を進めないことが大切です。
第三者行為災害届と給付請求の進め方
勤務先と病院に事故の事情を伝える
まず、勤務先へ事故の発生と仕事・通勤との関係を伝えます。病院にも、仕事中または通勤中の事故であることを正確に説明してください。
労災の対象となるけがについては、通常の健康保険による受診と区別が必要です。すでに健康保険で受診している場合は、病院、健康保険の加入先、労働基準監督署に切替えの手続きを確認します。
会社への報告だけで、必要な届出や給付請求がすべて終わったと思い込まないよう、提出先と進行状況も確認しましょう。
第三者行為災害届と添付書類を確認する
第三者行為災害として労災給付を受ける場合は、所轄の労働基準監督署へ「第三者行為災害届」を提出します。通常の給付請求に加えて必要になる届出であり、この届出だけですべての給付請求が済むわけではありません。
指定の専門書には、事故の状況に応じて、次のような添付資料が挙げられています。
交通事故証明書または交通事故発生届
念書
示談済みの場合の示談書の写し
自賠責等から支払いを受けている場合の支払証明書・支払通知書
自分の事故で必要な書類と、治療・休業などの給付請求に使う書式を、労働基準監督署に確認してください。 すべての事故で同じ添付書類が必要になるとは限りません。
書類には事故と受領済みの金額を正確に記載する
事故の経緯、相手方の情報、相手車両の保険、けがの状況、示談や支払いの状況などを整理します。分からない事項は推測で埋めず、確認方法を相談しましょう。
提出した書類の控えと窓口からの案内を手元に残し、その後に賠償金を受け取った場合などは担当窓口へ伝えてください。これは、複数の制度の手続きを食い違わせないための整理方法です。
相手方と示談する前に確認したいこと
給付への影響を確認してから合意する
厚生労働省の案内では、不用意な示談により労災給付を受けられなくなったり、受給済みの給付の回収が問題になったりする場合があるとされています。
労災を利用している、または利用を考えている場合は、相手方との示談前に労働基準監督署へ相談しましょう。 特に、将来の治療費や「今後の請求をしない」とする文言の扱いを確認することが大切です。
金額だけでなく、何を解決する示談なのかを確認する
示談案を受け取ったら、治療費、休業に関する損害、慰謝料などの内訳と、受領済みの金額がどう計算されているかを整理します。
労災を利用したことだけを理由に、相手方への請求がすべてなくなったと判断する必要はありません。一方、受給額を無視して示談金を計算することも避けます。調整や示談の範囲で判断に迷う場合は、給付・支払いの通知と示談案を持って弁護士へ相談する方法があります。
まとめ:事故の経緯と保険の支払状況を整理する
仕事中・通勤中の交通事故は、業務災害・通勤災害に該当すれば労災保険の対象となります。相手方のいる事故では、第三者行為災害の届出と、自賠責等の支払いとの調整も必要です。
事故時の業務・通勤との関係を記録し、勤務先、病院、労働基準監督署へ正確に伝えましょう。 労災と自賠責の利用順序を一律に決めつけず、支払状況を整理しながら手続きを進め、示談前には給付への影響を確認してください。
この記事の執筆者
あきらB
交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け取れるよう、法律的な観点から初期対応のアドバイスや記事の執筆、内容の検証・監修を行っています。