この記事はこんな人におすすめ:
提示書に治療費の控除があり、二重に負担させられていないか心配な方
病院への支払いと、自分が受け取る示談金の関係を知りたい方
過失割合がある場合の精算や、既払金の内訳を確認したい方
交通事故の示談金から治療費が引かれているのは、損害の総額に含めた治療費のうち、すでに相手方から支払われた分を精算しているためという場合があります。病院へ直接支払われた治療費も、支払済み額として扱われることがあるため、自分の口座への入金だけでは確認できません。ただし、すべての控除が正しいとは限らず、損害額への計上、支払いの内訳、過失割合の反映を確かめる必要があります。この記事では、治療費と最終的な受取額の関係を、仮定例とともに整理します。
目次
治療費が引かれるのは支払済み額を精算するため
慰謝料から治療費が引かれているように見える理由
過失割合があると最終的な受取額はどう変わる?
提示書の治療費・既払金で確認する4つのこと
控除の説明に納得できないときの対応
まとめ:総額・支払済み額・残額を分けて確認する
治療費が引かれるのは支払済み額を精算するため
損害の総額と、これから支払う金額は違う
交通事故の賠償では、治療費や通院交通費、休業損害、慰謝料などを項目ごとに計算します。この合計額と、示談後に新たに振り込まれる額は、必ずしも同じではありません。
例えば、保険会社がすでに治療費を払っている場合、その費用を含む損害額の全額を、さらに被害者へ支払うと同じ費用が重複します。そのため、損害として計上することと、すでに支払った分を差し引くことは、両立します。
提示書では、この支払い済みの金額が「既払金」などの欄に記載されることがあります。まず、その欄が何の支払いを集計しているのかを確認しましょう。
病院への直接払いも確認が必要
相手方の保険会社が病院へ直接払った治療費は、自分の銀行口座には入っていません。それでも、被害者の治療費として支払われた金額として、精算に反映されることがあります。
したがって、「その金額を自分は受け取っていない」というだけでは、控除が誤りとはいえません。
確認したいのは、誰が、誰に、どの期間の、何の費用を払ったのかです。銀行の入金記録だけでなく、保険会社の支払明細や医療機関ごとの内訳も確認すると整理できます。
慰謝料から治療費が引かれているように見える理由
治療費と慰謝料は別の損害項目
慰謝料は精神的な苦痛に対する賠償であり、治療費とは別の項目です。ただし、最後の支払額を計算する際には、複数の損害項目を合計し、そこから支払済み額などを差し引くことがあります。
その結果だけを見ると、「慰謝料から治療費を払わされた」と感じることがあります。まず、慰謝料自体の評価額と、精算後の振込額を区別してみましょう。
過失がない場合の単純な計算例
以下は説明用の仮定例です。実際の相場や解決事例ではなく、計算を分かりやすくするため、治療費と慰謝料だけを取り上げます。
項目 | 仮定の金額 |
|---|---|
治療費 | 60万円 |
慰謝料 | 100万円 |
損害の合計 | 160万円 |
保険会社が病院に支払済みの治療費 | 60万円 |
追加で被害者に支払う額 | 100万円 |
この場合は、160万円から60万円を差し引きますが、慰謝料100万円を40万円に減らしたわけではありません。治療費60万円は先に病院へ支払い、残りの100万円を被害者へ支払うという精算です。
一方、慰謝料100万円だけを出発点にして、そこから治療費60万円をさらに差し引いているように見える場合は、ほかの計算が省略されていないか、内訳を尋ねてください。見出しや最終金額だけでは、計算の全体像が分からないことがあります。
過失割合があると最終的な受取額はどう変わる?
過失による減額と、支払済み額の控除は別の処理
被害者側にも過失がある場合には、その割合に応じて賠償額が減額されることがあります。この過失相殺と、すでに支払われた金額の控除を分けて見ることが大切です。
次の例は、先ほどと同じ損害額に、被害者の過失20%があると仮定したものです。専門書97頁の計算例を参考に、過失相殺後の額から支払済み治療費を差し引く形を示しています。
計算の段階 | 仮定の計算・金額 |
|---|---|
治療費60万円+慰謝料100万円 | 160万円 |
被害者の過失20%を反映 | 160万円×80%=128万円 |
支払済み治療費を控除 | 128万円-60万円 |
追加で被害者に支払う額 | 68万円 |
この計算では、最終的な振込額は慰謝料の評価額100万円より少なくなります。しかし、慰謝料を68万円と評価したという意味ではありません。総損害額に過失割合を反映し、すでに払った60万円を精算した結果です。
この計算をすべての保険・給付に当てはめない
上の例は、相手方が支払った治療費を含めて精算する場面を単純化したものです。自賠責保険からの支払い、健康保険や労災保険などの給付、遅延損害金などが関係する場合まで、同じ方法で処理できるとは限りません。
「受け取ったお金は全部、過失相殺後に引けばよい」という計算にはしないでください。 支払いの性質や、どの損害に対応するかを区別する必要があります。
また、治療費を先に支払ってもらったことだけから、最終的な精算でも被害者に過失がない扱いになるとは判断できません。提示書の過失割合と、治療費の精算方法を別々に確認しましょう。
提示書の治療費・既払金で確認する4つのこと
1.治療費が損害の合計にどう含まれているか
最初に、損害額の欄に記載された治療費を見ます。どの医療機関の、いつまでの費用なのか、自分で払った分も含むのかを確認してください。
合計に入れた費用と、既払金として引いた費用の関係が分からなければ、両方の明細を求めます。ただし、金額が一致しないだけで直ちに誤計算とは限りません。未払い分、自己負担分、対象期間の違いなどを確認する必要があります。
2.自分で払った費用を、相手方が払った扱いにしていないか
病院の窓口で自分が支払い、その後も相手方から精算を受けていない費用は、相手方が支払済みの費用とは区別して確認します。
一方、最初は自分で払っていても、後日、保険会社から返金・精算を受けている場合があります。領収書だけでなく、その後の入金も照らし合わせることが重要です。
自分で支払った事実があれば必ず賠償対象になるという意味ではありません。費用の必要性などが争われているのか、単に支払いの整理が違うのかを分けて確認しましょう。
3.同じ支払いを重複して引いていないか
「治療費支払済み」と「既払金」の両方に金額が記載されている場合でも、片方が内訳の表示であることがあります。記載が2か所あるだけで、二重控除とは断定できません。
実際の計算式で、同じ支払いが何回差し引かれているかを確かめてください。どの欄が内訳で、どの欄が最終計算に使われているのかを尋ねると整理できます。
4.治療費以外の支払いが混ざっていないか
既払金に、通院交通費や休業損害などがまとめられている場合は、治療費だけと比較しても一致しません。
次のように項目を分け、支払明細と照らし合わせましょう。
記録する内容 | 確認例 |
|---|---|
支払日 | いつの振込・支払いか |
支払った人・会社 | 相手方の保険会社か、ほかの制度による支払いか |
支払先 | 自分の口座か、病院・薬局か |
対象の費用・期間 | 治療費、休業損害などの区分と対象期間 |
金額 | 個別の支払額と既払金欄の合計が対応するか |
これは確認のための整理例です。別制度の給付は同じ欄にまとめず、資料を分けて保管してください。
控除の説明に納得できないときの対応
差額の理由を具体的に尋ねる
「治療費を引かないでほしい」とだけ伝えるのではなく、何が分からないのかを整理しましょう。例えば、次のように質問できます。
損害に計上した治療費と、支払済み治療費の医療機関別・期間別の内訳を教えてください
この領収書の費用は自分で払いましたが、その後どの支払いで精算した計算ですか
既払金のうち、治療費以外の項目と金額を教えてください
過失割合による減額と、既払金の控除をどの順序で計算していますか
回答を受けたら、提示書のどの数字に対応するかを確認します。単なる集計の違いなのか、費用や過失割合について意見が違うのかを分けることが大切です。
複数の支払いがある場合は、資料をまとめて相談する
自賠責保険や社会保険などの支払いも関係している場合、単純な引き算だけでは確認できないことがあります。弁護士に相談するときは、示談の提示書だけでなく、支払明細、領収書、入金記録、各給付の通知などを持参すると、計算の前提を整理できます。
控除の意味が分からないまま、最終的な金額に合意する必要はありません。 まず説明を求め、なお疑問が残る場合は、返答前に相談してください。相談・依頼にかかる費用も、あわせて確認しましょう。
まとめ:総額・支払済み額・残額を分けて確認する
治療費が示談金から引かれている場合、損害の総額に含めた費用を、支払済みとして精算している可能性があります。病院への直接払いもあるため、自分の口座に入った金額だけで判断しないことが大切です。
損害の総額、過失割合を反映した額、支払済み額、追加で受け取る額を分けて確認しましょう。 内訳が不明な場合や別制度の給付が関係する場合は、資料をそろえて説明を求め、必要に応じて相談してください。
この記事の執筆者
あきらB
交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け取れるよう、法律的な観点から初期対応のアドバイスや記事の執筆、内容の検証・監修を行っています。