この記事はこんな人におすすめ:
交通事故のけがで仕事を休んだ個人事業主・フリーランスの方
売上と所得のどちらをもとに請求するのか知りたい方
固定費や家族の手伝い、確定申告の内容について説明に困っている方
自営業者の休業損害は、休業によって失った売上の全額ではなく、原則として、その売上を得るための原価・経費を差し引いた所得を基礎に検討します。 ただし、休業中も事業を維持するために必要な固定費や、家族・従業員の働きが含まれる場合には、別途整理が必要です。確定申告書だけでなく、帳簿や取引資料、けがによって仕事ができなかった事情も確認します。この記事では、個人で事業を営む方を中心に、計算の考え方と資料の整理方法を説明します。
目次
自営業者の休業損害は売上ではなく所得を基礎に考える
休業損害の計算で確認したい3つのこと
休業中の固定費や代わりに働く人の費用はどうなる?
確定申告がない・申告額と実収入が違う場合
請求のために整理する資料
まとめ:所得・休業の実態・経費を分けて説明する
自営業者の休業損害は売上ではなく所得を基礎に考える
売上が減った額と、失った利益は同じではない
小売業、飲食業、建設業、個人で受注する専門職などでは、売上を得るために仕入れや材料費、外注費などが必要になることがあります。
仕事を休むことで売上が減っても、同時に支払わずに済んだ費用があれば、それを区別しなければなりません。売上だけを示しても、事故によって失った利益をそのまま示したことにはならないためです。
専門書は、得られたはずの売上から、それを得るために必要だった原価と経費を差し引いた所得を基本とし、実際の休業前の数字に基づいて判断すると説明しています。
基本は「基礎となる日額」と「認められる休業日数」の確認
専門書では、通常、事故前年の確定申告書に記載された申告所得額などから基礎収入の日額を算出し、休業日数を掛ける方法が説明されています。
基本的な考え方:基礎収入の日額 × 認められる休業日数
ただし、この式の各数字をどう決めるかが重要です。申告書の一つの数字をそのまま使えばよいとは限らず、固定費、本人の働きが利益に占める割合、休業の程度なども確認します。
また、通院した日数が、そのまますべて休業日数になるわけではありません。どの仕事ができなかったのか、仕事を休む必要があった期間はどれだけかを整理する必要があります。
休業損害の計算で確認したい3つのこと
1.事故前の所得をどう把握するか
まずは、事故前年の確定申告書と、申告の基礎となった帳簿や決算資料を確認します。事故前後の売上や入金だけでなく、それぞれに対応する原価・経費も整理してください。
売上の変動が大きい場合は、その理由を説明できるようにしておくと役立ちます。例えば、季節による違い、まとまった案件の入金、開業からの期間などです。こうした事情があるから特定の計算方法になるとは限りませんが、数字の意味を理解するための情報になります。
入金された日と、実際に仕事をした時期も分けて確認しましょう。 休業中に入金があっても、事故前の仕事に対する代金である場合があります。反対に、入金が少ない月だからというだけで、その減少すべてが事故によるものとはいえません。
2.本人の働きによって得られる利益か
事業の利益には、本人だけでなく家族や従業員の働きが含まれていることがあります。専門書は、休業損害の対象となる本人の働きによる利益を区別する必要があると説明しています。
例えば、家族で店舗を運営している場合には、接客、仕入れ、調理、経理などを誰が担当していたかを整理します。家族への給与が申告上どう記載されているかだけでなく、実際の分担が問題になります。
事業全体の所得を、当然にすべて本人の休業損害として扱えるわけではありません。 本人が担っていた仕事と、ほかの人が続けていた仕事を分けて説明してください。
3.けがでできなかった仕事と、その期間は何か
自営業では、店を開けていたとしても、本人の業務が一部できなくなっている場合があります。一方、通院しながら通常どおりの仕事を続けられる場合もあります。
確認するときは、次のように仕事内容と身体の状態を結び付けます。
整理する内容 | 記録の例 |
|---|---|
事故前の仕事 | 現場作業、運転、接客、制作などの担当業務 |
難しくなった動作 | 重い物を運ぶ、長時間座る、細かな手作業をするなど |
仕事への影響 | 受注を断った、作業を延期した、担当を代わってもらったなど |
期間・変化 | 完全に休んだ期間、一部の仕事を再開した時期 |
これは整理のための例です。仕事の支障を記録しただけで、その期間・金額がすべて認められるわけではありません。診断や治療経過、取引の記録などと照らし合わせて検討します。
休業中の固定費や代わりに働く人の費用はどうなる?
事業維持に必要な固定費は検討対象になる
原価や経費を差し引くのが基本でも、すべての経費を同じように扱うわけではありません。
専門書は、売上の増減にかかわらず発生し、休業中も事業の維持・存続のために支払わなければならない固定費について、休業損害として認められると説明しています。店舗の賃料やリース料などが問題になります。
ポイントは、費目の名前だけでなく「休業中も支払いが必要だったか」です。 通信費や光熱費も、使用しなくなった分と、基本料金など継続して負担した分を分けて確認します。
所得との二重計上に注意する
固定費を検討するときは、基礎収入の計算でその費用をどのように扱ったかも確認します。
すでに計算に反映した費用を、さらに別項目として重ねて請求すると、同じ負担を二重に計上することになりかねません。申告所得、経費の調整、休業期間中の費用を、ひと続きの計算として確認することが必要です。
領収書や契約書、引落し記録などで、費用の内容と対象期間を説明できるようにしましょう。
代わりの人を雇った場合は、その必要性と費用を整理する
専門書は、通院期間中に本人の代わりに雇った人の人件費等について、事故との相当因果関係のある損害として認められることがあると説明しています。
代替の人を依頼した場合は、誰に、どの仕事を、いつまで依頼したのか、実際にいくら支払ったのかを確認してください。
ただし、代わりの人に払った費用がすべて当然に認められるという意味ではありません。本人の休業による利益の減少と代替費用が、同じ損害を重複して示していないかも整理する必要があります。
確定申告がない・申告額と実収入が違う場合
実際の所得が申告額より多いという説明には裏付けが必要
確定申告書に記載された額より多くの所得があったと主張する場合は、「本当はもっと稼いでいた」という説明だけでは足りません。
専門書も、申告外の所得を認めた事例を挙げる一方で、信用性の高い帳簿や伝票、現金出納帳などによる厳格な立証が必要であり、容易に認められるものではないと説明しています。
申告額と違う所得を主張する場合は、売上と経費の両方を客観的に説明できるかが重要です。 請求のために数字を作ったり、記録を書き換えたりせず、既存の資料をそのまま整理してください。
未申告・赤字・開業直後でも結論を一律にしない
専門書には、申告していない場合、赤字申告の場合、開業準備中で申告書がない場合などの個別事例も掲載されています。
しかし、これらの事例があるからといって、申告書がなくても必ず休業損害を受け取れる、平均賃金を使えば計算できる、というものではありません。反対に、申告書がないという理由だけで、あらゆる検討が不要になるわけでもありません。
事業の実態、収入を裏付ける資料、事故がなければ仕事を行えた見込みなど、どこまで説明できるかを確認します。判断が難しい場合は、資料を持って相談してください。
請求のために整理する資料
収入の資料と休業の資料を分ける
自営業者の休業損害では、収入の額だけでなく、事故によって仕事にどのような影響が生じたかも説明する必要があります。次のように分けておくと整理しやすくなります。
確認する事項 | 資料の例 |
|---|---|
事故前の所得 | 確定申告書、決算書・収支内訳書、帳簿 |
売上・経費の裏付け | 請求書、領収書、通帳、現金出納帳 |
仕事を休んだ経緯 | 診断書、通院記録、業務の記録 |
受注・納期への影響 | 契約書、予約記録、取引先との連絡 |
継続して負担した固定費 | 賃貸借契約書、リース契約書、支払記録 |
代替の人への支払い | 依頼内容、作業記録、請求書・支払記録 |
これは相談準備のための例であり、すべてを必ず提出しなければならないという意味ではありません。事業の形態や争点に合わせて、必要な資料を確認します。
提示額に疑問がある場合は計算の前提を尋ねる
保険会社の提示額に納得できない場合は、どの所得を使い、何日分を認め、固定費や家族の働きをどう扱ったのかを尋ねましょう。
所得の評価に争いがあるのか、休業日数に争いがあるのかで、追加する説明や資料が変わります。 単に希望額を伝えるのではなく、計算のどこに違いがあるかを明らかにすることが大切です。
申告額との違いや、家族・従業員との分担、固定費の扱いを整理できない場合は、帳簿などを持って弁護士に相談することが考えられます。税務上の修正の要否や方法は、賠償請求とは分けて税理士などに確認してください。
まとめ:所得・休業の実態・経費を分けて説明する
自営業者の休業損害は、売上全額をそのまま請求するものではありません。事故前の所得と本人の働き、仕事を休む必要があった期間、休業中も必要だった固定費などを確認します。
確定申告書だけで判断せず、その数字を裏付ける帳簿と、仕事への支障を示す資料を組み合わせて整理しましょう。 計算方法や提示額に疑問がある場合は、どの前提が違うかを確認し、必要に応じて相談してください。
この記事の執筆者
あきらB
交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け取れるよう、法律的な観点から初期対応のアドバイスや記事の執筆、内容の検証・監修を行っています。