この記事はこんな人におすすめ:
保険金や社会保険の給付を受けると、相手への請求額が減るのか知りたい人
示談の提示書にある「既払金」「控除」の意味を確認したい人
複数の保険を利用していて、支払いの内訳を整理したい人
交通事故で保険金や給付を受けても、受け取った金額がすべて一律に賠償金から差し引かれるわけではありません。 同じ損害を補う支払いか、契約に基づく定額の給付かなどによって、調整の扱いが異なります。また、すでに支払われた賠償金の精算と、保険会社が請求権を引き継ぐ問題も区別が必要です。この記事では、損益相殺の基本と、示談前に確認したい保険金・給付の整理方法を説明します。
目次
損益相殺とは?過失相殺・既払金との違い
保険金・給付は種類によって調整方法が異なる
「何の損害を補う支払いか」を確認する
示談の提示額で確認したい控除の内訳
複数の給付を受けたときに準備する資料
まとめ:受取総額ではなく、支払いの性質と計算を確認する
損益相殺とは?過失相殺・既払金との違い
損害と利益を調整する考え方
損益相殺は、事故によって損害が生じる一方、その事故に関連して損害を埋める利益も生じた場合に、賠償額を調整する考え方です。ただし、事故をきっかけに受け取ったお金なら、何でも調整の対象になるという意味ではありません。
保険や給付には、それぞれ異なる支払いの目的があります。実際の損害を補うものと、契約で決めた条件を満たすと定額が支払われるものを、同じように扱うことはできません。
「事故後にいくら受け取ったか」だけでなく、「何の制度から、何を補うために受け取ったか」が出発点です。
過失相殺は事故への責任に応じた調整
過失相殺は、被害者側にも事故の発生などについて落ち度がある場合に、その事情を賠償額に反映させるものです。これに対し、損益相殺は、損害を補う利益との調整が問題になります。
たとえば、自分にも過失があることと、保険金を受け取っていることは別の問題です。提示額を確認するときは、過失による減額と、保険金などの支払いによる調整を分けて読みましょう。
「既払金」や保険会社の「代位」も区別する
提示書の「既払金」は、すでに支払われたお金を示す項目です。治療費などの支払いを最終的な精算に反映する問題は、厳密には損益相殺と同じではありません。
また、保険会社が保険金を支払った結果、一定の範囲で被害者の加害者に対する請求権を引き継ぐことがあります。これを「代位」といいます。
いずれも最後の受取額に関係しますが、法律上の仕組みは異なります。単に「控除」と書かれている場合は、どの仕組みによる調整かも確認することが大切です。
保険金・給付は種類によって調整方法が異なる
自賠責保険金は支払済みの金額と充当先を確認する
自賠責保険金の支払いを受けた場合、その支払いを無視して、同じ損害について未払いであるかのように計算することはできません。
ただし、確認すべきなのは支払額だけではありません。損害の元の金額である「元本」と、支払いの遅れに伴う「遅延損害金」のどちらに充てるかも、最終的な計算に関係します。
参照書籍では、自賠責保険金について、支払時点の元本と遅延損害金の全額に足りない場合、まず発生済みの遅延損害金に充てるとした判例が紹介されています。訴訟などで遅延損害金も計算する場面では、「受け取った自賠責保険金を元本からそのまま引けば終わり」とは限らない点に注意が必要です。
人身傷害保険は受取額の全額を機械的に引かない
自分側の人身傷害保険と、加害者に対する損害賠償請求との関係では、保険会社がどの範囲の請求権を引き継ぐかが問題になります。
書籍では、裁判で認定される損害額を前提に、まず被害者自身の過失に相当する損害を保険金で補い、それを超える部分について保険会社が代位するという考え方が説明されています。
したがって、人身傷害保険から受け取った全額を、加害者への請求額から無条件に差し引く説明は適切ではありません。 一方、保険金とは別に加害者から常に全額を受け取れるわけでもありません。契約内容、損害額の算定、支払いの経過を確認する必要があります。
定額の搭乗者傷害保険は人身傷害保険と性質が異なる
書籍で説明されている定額給付型の搭乗者傷害保険は、実際の損害額を埋める人身傷害保険とは異なります。入通院日数やけがの部位・症状など、契約で定めた条件に応じて保険金が支払われる仕組みです。
書籍は、この搭乗者傷害保険について、人身傷害保険とは別に支払われ、代位の対象にならないと説明しています。保険金を受け取ったという共通点だけで、両者を同じ控除の対象としてまとめないようにしましょう。
実際に加入している商品がどの仕組みかは、保険証券や約款、支払通知で確認します。
「何の損害を補う支払いか」を確認する
社会保険の給付と慰謝料を一括りにしない
労災保険や健康保険を利用している場合も、給付が対象とする損害を確認する必要があります。
書籍では、労災保険には給付の対象や範囲に限りがあり、慰謝料は給付の対象外と説明されています。また、健康保険による治療では、治療費の自己負担部分以外を保険者が負担する仕組みが示されています。
このように、給付の内容は同じではありません。「労災を使ったから慰謝料も支払い済み」「健康保険を使ったから賠償請求はできない」と、利用の事実だけで結論づけないことが大切です。
具体的な差引きの範囲や順序は給付の種類に応じた検討が必要なため、支給決定通知などで正式な給付名を確認しましょう。
すでに支給されたものと将来の見込みを分ける
支給済みか、今後受けられるかもしれない段階かも、重要な違いです。
たとえば書籍は、装具・器具や住宅改造などについて、社会福祉制度からすでに支給された現物・補助金は損害から控除できる一方、将来分をあらかじめ控除することはできないと説明しています。申請が必要なことや、制度が変わる可能性があることなどが理由です。
これは書籍が扱う給付についての説明であり、すべての年金・保険金にそのまま当てはめるものではありません。「将来給付があるはず」という見込みで差し引かれている場合は、給付の種類と控除の根拠を確認しましょう。
示談の提示額で確認したい控除の内訳
提示書では、最終的な振込予定額だけでなく、計算の途中を確認します。次の表は、提示内容を整理するための確認例です。
確認する項目 | 確認したい内容 |
|---|---|
控除される支払いの名称 | 自賠責保険金、人身傷害保険金、社会保険給付などの正式名称 |
金額・支払日・支払先 | 通知書や入金記録と一致しているか。病院への支払いも含むか |
対象となる損害 | 治療費、休業による損害など、何を補う支払いか |
計算の順序 | 過失による調整、既払金の精算、代位がどのように反映されているか |
重複の有無 | 同じ支払いが別の項目でも差し引かれていないか |
未支給分の扱い | 支給済みの金額と、将来の見込みが混在していないか |
分からない項目があれば、「この金額は、どの支払いを、どの損害から差し引いたものですか」と説明を求めましょう。
自分の口座への入金額だけでは、支払済みの金額を把握できないことがあります。 保険会社から病院などに直接支払われた費用も、提示書と照合するために確認しておくと整理しやすくなります。
複数の給付を受けたときに準備する資料
示談の提示を確認する際は、次の資料を手元にまとめる方法が考えられます。
保険会社の賠償額の提示書と計算明細
保険金・給付の支払通知、支給決定通知
加入している保険の証券・約款
入金記録と、治療費などの支払いを確認できる資料
資料を基に、「支払元・正式名称・対象期間・金額・支払先」を一件ずつ整理すると、同じ支払いを二重に数えることや、性質の違う給付をまとめてしまうことを防ぐための確認に役立ちます。
金額が一致しない場合は、その理由が分かるまで内訳を確認しましょう。人身傷害保険の代位や、複数の社会保険給付が関係する場合には、提示書と支給資料を併せて弁護士に見てもらうことで、確認すべき争点を整理できます。
まとめ:受取総額ではなく、支払いの性質と計算を確認する
交通事故の損益相殺や保険金の調整は、受け取ったお金の総額を単純に差し引く問題ではありません。給付の目的、対象となる損害、支給の状況に加え、既払金の精算や保険会社の代位を区別する必要があります。
まずは、提示書の「控除」「既払金」の内訳を、保険金や給付の通知書と照合してください。何が、どの理由で差し引かれているのか分からない場合は、示談に同意する前に説明を求めることが大切です。 判断が難しいときは、資料をそろえて弁護士への相談を検討しましょう。
この記事の執筆者
あきらB
交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け取れるよう、法律的な観点から初期対応のアドバイスや記事の執筆、内容の検証・監修を行っています。