この記事はこんな人におすすめ:
交通事故の後、においや食べ物の味を感じにくくなった人
鼻のけがが治療後も残り、呼吸や外見に支障がある人
嗅覚・味覚の検査結果や仕事への影響を、後遺障害の申請に向けて整理したい人
交通事故後ににおいや味が分からなくなった場合、嗅覚・味覚の後遺障害として検討することがあります。鼻の一部が欠損した場合や、鼻で呼吸しにくい状態が残った場合とは、確認する要件が異なります。
後遺障害では、本人が感じる不便だけでなく、症状に対応した検査結果、事故との関係、治療後の経過を整理することが重要です。本記事では、鼻の形や呼吸の障害、嗅覚・味覚の障害を分けて説明します。
目次
鼻の形・呼吸・におい・味を分けて確認する
鼻の欠損と機能障害では、9級5号などが問題になる
嗅覚障害では、脱失と減退を検査で区別する
味覚障害では、4種類の味の検査結果を確認する
事故との関係と、症状が残った経過を整理する
生活・仕事への支障と、逸失利益の考え方
申請前や非該当となったときに確認したい資料
まとめ:症状に対応する検査と経過の記録が大切
鼻の形・呼吸・におい・味を分けて確認する
同じ事故で生じても、評価する機能は異なる
鼻には、空気の通り道としての働きと、においを感じる働きがあります。また、顔の一部として、欠損や傷あとが外見に影響することもあります。
これに対し、味覚は甘味や塩味などを感じる働きです。鼻の障害と味覚障害は同じものではありませんが、食事の風味にはにおいも関係するため、「味がしない」という訴えについて両方の確認が必要になる場合があります。
確認する障害 | 症状・所見の例 | 整理したい内容 |
|---|---|---|
鼻の欠損・外見の変化 | 鼻の一部が失われた、傷あとが残った | 欠損範囲、外貌への影響、機能障害の有無 |
鼻呼吸の障害 | 鼻で呼吸しにくい | 鼻の内部の状態、通気の支障、原因 |
嗅覚障害 | においが分からない、弱く感じる | 嗅覚検査、神経や鼻腔の障害、事故との関係 |
味覚障害 | 甘さや塩味などが分からない | 味覚検査、舌や神経等の障害、治療経過 |
症状を一括して「鼻の後遺症」とするのではなく、何ができなくなったのかを具体的に伝えることが大切です。
鼻の外見に大きな傷がなくても、嗅覚障害が問題になる
嗅覚には、鼻の中でにおいを受け取る部分だけでなく、そこから脳へ情報を伝える神経や脳の働きが関係します。頭部外傷によって嗅覚の経路が損傷する場合もあるため、鼻の外見だけで障害の有無は判断できません。
書籍では、鼻骨や鼻中隔の骨折などによる空気の通り道の問題、嗅神経に関係する線維の損傷、脳の損傷などが、外傷後の嗅覚障害の原因として説明されています。
診断名が付いたことと、後遺障害等級が認められることは別です。どのような損傷があり、それが現在の症状をどう説明するのかを確認します。
鼻の欠損と機能障害では、9級5号などが問題になる
9級5号は、欠損と著しい機能障害の両方が問題になる
自賠責の等級表には、鼻の欠損に加えて、その機能に著しい障害を残したものとして、9級5号が定められています。
書籍は、ここでいう欠損を鼻軟骨部の全部または大部分の欠損とし、著しい機能障害を鼻呼吸困難または嗅覚脱失として説明しています。
したがって、鼻骨骨折という診断だけ、あるいはにおいが分からないという症状だけで、9級5号になるわけではありません。欠損の範囲と残った機能障害を、それぞれ確認する必要があります。
骨折と欠損も同じ意味ではありません。骨折後の変形、鼻の内部の状態、軟骨部が失われた範囲などを、診察所見や画像・手術記録と対応させて整理します。
欠損がなくても、機能障害を検討する場合がある
鼻の欠損を伴わない場合でも、鼻呼吸困難や嗅覚障害が残れば、相当等級による評価が問題になります。書籍の整理は次のとおりです。
鼻の欠損を伴わない機能障害 | 検討される等級 |
|---|---|
鼻呼吸困難 | 12級相当 |
嗅覚脱失 | 12級相当 |
嗅覚の減退 | 14級相当 |
一時的な鼻づまりや、「呼吸しにくい気がする」という訴えだけで判断するものではありません。事故による損傷と、治療後に残った障害の内容を確認します。
外貌の傷あととしての評価も区別する
鼻に欠損や傷あとが残る場合、外貌醜状としての評価が問題になることもあります。鼻の欠損の評価と外貌醜状の評価を、同じ損傷について単純に重ねるわけではありません。
書籍では、鼻の欠損と外貌醜状について、いずれか上位の等級で認定する取扱いが説明されています。外見と機能のどちらにどのような障害があるかを分け、各評価の関係を整理することが必要です。
嗅覚障害では、脱失と減退を検査で区別する
「全く分からない」と「弱く感じる」を確認する
においを感じる働きが失われた状態を嗅覚脱失、低下した状態を嗅覚減退といいます。後遺障害では、本人の言葉だけでなく、所定の検査によって障害の程度を確認します。
書籍は、T&Tオルファクトメータによる基準嗅力検査の「認知域値の平均嗅力損失値」を用い、次のように区分しています。
認知域値の平均嗅力損失値 | 認定上の区分 | 検討される等級 |
|---|---|---|
5.6以上 | 嗅覚脱失 | 12級相当 |
2.6以上5.5以下 | 嗅覚の減退 | 14級相当 |
これは医療機関の検査結果に基づく区分です。「普段のにおいの半分が分からない」といった自己評価の割合や、別の検査の点数をそのまま当てはめることはできません。
また、嗅覚の低下が認められれば、程度を問わず14級相当となるわけでもありません。書籍では、上記の減退の基準に達しない軽度低下と、認定対象となる減退が区別されています。
においを感じたことと、何のにおいか分かったことは違う
基準嗅力検査では、濃度の異なるにおいを用い、においを感じ取れるか、どのようなにおいか分かるかを調べます。
「何かにおう」と気付くことに関係する検知域値と、においの性質を認識する認知域値は、区別する必要があります。後遺障害の資料では、どちらの数値が記載されているかも確認しましょう。
書籍には、静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)についての説明もあります。ただし、検査の目的や用いる薬剤によって評価上の注意があり、嗅覚の脱失と減退を同じように判定できるとは限りません。
どの検査を行うかは担当医に相談してください。検査名だけを指定するのではなく、残存する症状を評価するために何が必要かを確認することが大切です。
身近な物を嗅ぐだけでは、認定資料として十分とは限らない
日常生活で香水や食べ物のにおいが分からないことは、症状を説明する情報になります。しかし、それだけで認定上の検査に代わるわけではありません。
書籍でも、身近なにおいを嗅がせる方法だけでは所定の検査方法に沿わないとして、障害の認定が否定された裁判例が紹介されています。生活の記録と、医学的な検査結果の両方を整理しましょう。
においを確かめるために、ガス、溶剤、煙などを意図的に吸い込むことは避けてください。危険な物を使った自己検査は必要ありません。
味覚障害では、4種類の味の検査結果を確認する
「食事がおいしくない」だけで味覚脱失とは判断できない
味覚障害では、甘さや塩味などの基本的な味を感じる働きに、どの程度の障害が残ったかを確認します。食べ物の風味を感じにくい場合には、嗅覚の障害が関係していないかも整理します。
書籍では、頭部や顎の周囲、舌の損傷などによって生じる味覚障害について、味覚脱失を12級相当、味覚減退を14級相当として扱うことが説明されています。
味覚障害の区分 | 濾紙ディスク法の最高濃度液による確認 | 検討される等級 |
|---|---|---|
味覚脱失 | 甘味・塩味・酸味・苦味の4種類すべてを認知できない | 12級相当 |
味覚減退 | 4種類のうち1種類以上を認知できないが、すべての脱失には当たらない | 14級相当 |
味が薄く感じるという訴えと、この検査基準を満たすことは同じではありません。どの味を、どの濃度で、どの部位において認知できたかを確認します。
一般的な味覚の説明では「うま味」を含む5種類の基本味が挙げられますが、上の認定基準で用いる検査は4味質です。両者を混同しないことが必要です。
濾紙ディスク法と電気味覚検査は、同じ検査ではない
濾紙ディスク法は、味のある検査液を染み込ませた濾紙を舌などの検査部位に置き、味を感じるか、何の味か分かるかを調べるものです。
電気味覚検査は、電気刺激に対する反応から味覚の働きを調べる検査です。書籍では、味の種類を分けて調べるものではなく、支配神経ごとの障害を検討する目的などが説明されています。
そのため、電気味覚検査で異常があったというだけで、4味質のすべてが分からない味覚脱失に当たると判断することはできません。検査ごとの役割と、認定に必要な資料との関係を確認します。
味覚障害では、認定時期にも注意する
書籍は、味覚障害について、時間の経過により回復する場合があることから、原則として症状固定後6か月を経過した後に等級を認定する取扱いを説明しています。
これは、事故から6か月たてば必ず申請できる、あるいはその間は受診しなくてよいという意味ではありません。症状固定の判断と、その後の障害評価の時期を区別し、治療経過・検査時期・申請の進め方を担当医や弁護士に確認する必要があります。
事故との関係と、症状が残った経過を整理する
障害の存在と、事故が原因であることは別の問題
嗅覚や味覚の検査で障害が確認されても、それだけで事故との因果関係が証明されるわけではありません。顔面・頭部・口の受傷状況と、症状が生じた時期、診察や画像の所見を併せて確認します。
事故前からの鼻の病気、感染症の後の変化、服薬など、ほかの原因が問題になる場合もあります。既往歴や薬の使用状況を正確に伝え、医師がどのような原因を考えているかを整理しましょう。自己判断で薬を中止する必要はありません。
一方、事故前に別の病気があったことだけで、事故の影響が当然に否定されるわけでもありません。事故前の状態と事故後の変化を比較し、現在の症状を説明する資料を確認します。
症状に気付いた時期と、初めて伝えた時期を分ける
重いけがの治療や入院が先行し、においや味の変化を後から自覚する場合もあります。そのようなときは、「症状に気付いた時期」「医療機関に伝えた時期」「検査で確認された時期」を分けて整理します。
時間がたってから訴えたことだけで直ちに結論が決まるわけではありませんが、記録が乏しいと事故との関係が争われることがあります。頭部の治療記録、食事を再開した時期、紹介状など、経過をつなぐ資料を確認しましょう。
後から症状の開始日を推測で断定するのではなく、確実に分かる事実と、記憶が曖昧な部分を区別して説明することが大切です。
生活・仕事への支障と、逸失利益の考え方
日常の不便を具体的に記録する
嗅覚や味覚の障害は外見から分かりにくく、検査数値だけでは日々の不便が伝わりにくいことがあります。実際に変化した場面を整理します。
調理中に香りや味付けを確認しづらくなった。
食品の状態をにおいで判断できず、家族などの確認が必要になった。
食事の楽しみが減り、食事の準備や取り方が変わった。
仕事で行っていた香り・味・異臭の確認を、ほかの人に任せるようになった。
鼻で呼吸しにくく、日常生活や作業に支障が生じている。
これは記録する項目の例であり、すべての人に同じ支障が生じるわけではありません。できることや改善したことも含めて、事故前との違いを正確に記録します。
安全上の確認をにおいや味だけに頼らないことも大切です。症状を証明するために傷んだ食品を口にするなど、危険な行動をする必要はありません。
等級認定と、将来の収入減少は同じ判断ではない
嗅覚・味覚の障害が認められても、逸失利益が必ず一定割合で認められるわけではありません。書籍でも、嗅覚障害の存在とは別に、労働能力の喪失やその期間が争点になることが説明されています。
料理や飲料、香りの評価などに関わる仕事では、担当していた具体的な作業と、事故後にできなくなったことが重要です。他方、職種名だけで損害額が決まるわけではありません。
業務の変更、他者による補助、作業時間の増加、収入への影響などを、勤務先の資料や事故前後の収入資料と対応させます。収入が変わらない場合も、本人の努力や職場の配慮の実態を整理することが必要です。
申請前や非該当となったときに確認したい資料
症状と検査が対応しているかを確認する
資料 | 主な確認点 |
|---|---|
初診からの診療録・紹介状 | 受傷部位、症状を訴えた時期、治療や転院の経緯 |
画像・手術記録・鼻の診察所見 | 骨折、欠損、鼻腔や頭部の損傷、機能障害との関係 |
嗅覚検査の結果 | 検査方法、認知域値等の数値、脱失・減退の評価 |
味覚検査の結果 | 検査方法、濃度、味の種類、検査部位ごとの結果 |
事故前の通院・服薬記録 | 既往症や別の原因、事故前後の変化 |
後遺障害診断書 | 症状固定時の状態、残存障害、検査結果との整合性 |
写真・生活や仕事の記録 | 欠損や外貌の状態、日常の支障、業務変更の内容 |
診断書に「嗅覚障害」「味覚障害」とだけ書かれている場合、どの検査でどの程度の障害が確認されたのかが十分に伝わらないことがあります。検査結果の用紙や医師の説明も含めて整理しましょう。
非該当の理由に応じて、追加資料を検討する
非該当や想定と異なる等級となった場合は、障害の程度が基準に達しないとされたのか、検査方法や資料が不足していたのか、事故との関係が否定されたのかを分けて確認します。
例えば、においの検知域値だけが示され、認知域値の評価が不明な場合と、検査上は障害があるものの事故との関係が争われる場合とでは、確認する資料が異なります。
異議申立てなどを検討する際は、症状の訴えを繰り返すだけでなく、判断理由に対応する医学的な説明や未提出資料があるかを確認します。追加検査の必要性は医師に相談し、検査を増やせば必ず認定されると考えないことが大切です。
まとめ:症状に対応する検査と経過の記録が大切
鼻・嗅覚・味覚の後遺障害では、鼻の欠損や呼吸の支障と、におい・味を感じる働きの障害を分けて検討します。嗅覚や味覚の脱失・減退は、本人の感覚だけではなく、所定の検査による評価が重要です。
事故との関係、検査結果、治療後の経過、生活・仕事への影響を整理し、何が認定上の問題になっているかを明確にしましょう。
本記事は一般的な情報を説明するもので、個別の診断、検査の必要性、等級認定を判断するものではありません。医療上の判断は担当医に、申請資料や損害賠償の対応は弁護士に相談してください。
この記事の執筆者
あきらB
交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け取れるよう、法律的な観点から初期対応のアドバイスや記事の執筆、内容の検証・監修を行っています。
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