この記事はこんな人におすすめ:
交通事故で歯が折れたり抜けたりして、被せ物やブリッジなどの治療を受けた人
顎のけがの後、噛みにくい、口が開きにくい、飲み込みにくい状態が残っている人
発音や声の変化について、後遺障害の検討に必要な資料を知りたい人
口・歯の後遺障害では、歯の損傷と、噛む・飲み込む・話す機能の障害を分けて確認します。歯の治療を受けた本数だけで、口の障害全体の等級が決まるわけではありません。
歯については、認定対象になる損傷か、どの歯を数えるかが重要です。噛みにくさなどについては、その原因となる顎・筋肉・神経等の障害を医学的に確認する必要があります。本記事では、等級の考え方と申請資料を整理します。
目次
口・歯の後遺障害は、損傷と機能を分けて確認する
歯の後遺障害は、対象となる歯の本数で等級が変わる
噛みにくさ・口の開きにくさと後遺障害
飲み込みにくさは、嚥下機能の障害として確認する
発音の障害と、かすれ声は分けて考える
複数の障害と、生活・仕事への影響を整理する
申請前や非該当となったときに確認したい資料
まとめ:歯の本数だけでなく、残った機能を確認する
口・歯の後遺障害は、損傷と機能を分けて確認する
歯の障害と、口全体の働きの障害は同じではない
口には、食べ物を噛む咀嚼(そしゃく)、飲み込む嚥下(えんげ)、言葉を発する働きなどがあります。歯だけでなく、顎の骨や関節、舌、唇、筋肉や神経も関係しています。
障害の種類 | 主に確認すること |
|---|---|
歯牙障害 | 失われた歯・著しく欠けた歯、補綴の内容、認定対象となる本数 |
咀嚼機能障害 | 噛める食べ物、噛めない原因、噛み合わせ、顎の動き |
嚥下機能障害 | 飲み込む働き、食事の形態、原因となる舌や神経等の障害 |
言語機能障害 | 発音できない語音、舌・唇等の状態、意思疎通への影響 |
かすれ声 | 声帯等の障害、声の状態、治療後の残存状況 |
例えば、下顎骨骨折の後に歯を失うだけでなく、噛み合わせや口の開閉にも支障が残る場合があります。一方で、歯の治療によって食べる機能が回復する場合もあります。
診断名や事故直後のけがの大きさだけではなく、治療後に何が残ったかを確認することが大切です。味が分からないという症状は、味覚障害として別に検討します。
事故前の歯の状態も確認する
事故前から失われていた歯、すでに補綴されていた歯、虫歯などの状態と、事故による損傷を区別します。補綴(ほてつ)は、失われた歯や歯の部分を人工物で補う治療です。
治療後の写真だけでは、事故によってどの部分が失われたか分からないことがあります。初診時の画像、歯科診療録、事故前に通院していた歯科の記録などを確認しましょう。
歯の後遺障害は、対象となる歯の本数で等級が変わる
歯科補綴の対象となる歯数と等級
自賠責では、歯科補綴を加えた歯の本数に応じて、次の等級が定められています。
認定対象となる歯科補綴の本数 | 等級 |
|---|---|
14歯以上 | 10級4号 |
10歯以上13歯以下 | 11級4号 |
7歯以上9歯以下 | 12級3号 |
5歯以上6歯以下 | 13級5号 |
3歯以上4歯以下 | 14級2号 |
ただし、治療した歯をすべて数えるわけではありません。書籍では、現実に失われた歯や著しく欠損した歯に対する補綴などが対象になると説明されています。
著しい欠損については、歯冠部の体積の4分の3以上の欠損などが問題になります。歯冠部とは、通常、歯ぐきより外に出ている部分です。少し欠けた歯を修復したというだけで、当然に1歯として数えられるわけではありません。
ブリッジの歯数と、認定上の歯数は一致しないことがある
ブリッジなどでは、失った歯を補うために、周囲の歯を支えとして治療することがあります。完成した人工の歯の数や、治療費の明細に載る歯の数が、そのまま認定対象の本数になるとは限りません。
例えば、2歯を失い、その両隣の歯を支えにした場合、治療が及んだ歯が4歯だから必ず「4歯に対する補綴」と扱われるわけではありません。支えとなる歯は、支台になったという理由だけでは数えず、歯冠部の大部分の切除など、認定対象となる状態かを確認します。
また、失った歯の数と義歯の歯数が違う場合には、喪失した歯の数による取扱いが説明されています。歯ごとの受傷内容と処置を対応させることが重要です。
保存できた歯や、事故前の補綴にも注意する
事故で歯がぐらついた場合でも、保存・固定する治療をした歯と、抜歯した歯とでは、歯牙障害としての取扱いが異なります。書籍では、亜脱臼した歯を保存して固定した場合は、そのことだけでは歯牙障害の認定対象にならないと説明されています。
もちろん、認定のために抜歯を選ぶという意味ではありません。治療方針は歯科医師と相談し、適切な治療の結果として残った状態を評価します。
すでに歯の後遺障害に当たる状態があり、事故によってさらに悪化した場合には、既存障害と今回の障害を分ける「加重」の検討も必要です。口の中の補綴歯をすべて今回の事故によるものとして数えることはできません。
なお、対象が1~2歯にとどまる場合、上記の歯数による等級には達しません。ただし、これは歯牙障害の等級の話です。別に残る咀嚼等の障害の有無や、治療費などの損害の検討とは区別する必要があります。
噛みにくさ・口の開きにくさと後遺障害
食べられる物と、噛めない原因を確認する
咀嚼機能は、上下の噛み合わせや歯の並び、下顎の開閉運動などを総合して評価します。顎関節の障害、不正咬合、開口障害、咀嚼に関係する筋肉の異常などが問題になります。
咀嚼機能だけに障害が残る場合の主な等級は、次のとおりです。
機能の状態 | 書籍における判断の目安 | 自賠責の等級 |
|---|---|---|
咀嚼機能を廃した状態 | 流動食以外を摂取できない | 3級2号 |
咀嚼機能に著しい障害がある状態 | おかゆ、またはそれに準ずる飲食物以外を摂取できない | 6級2号 |
咀嚼機能に障害がある状態 | 固形食物の中に噛めない物や十分に噛めない物があり、その原因を医学的に確認できる | 10級3号 |
表は、言語機能にも障害が残る場合などの組合せをすべて示すものではありません。また、本人が軟らかい食事を選んでいることだけで、その食事しか摂取できない状態と判断されるわけではありません。
「何が食べられないか」と「なぜ噛めないか」の両方を確認します。診療上の食事指示、噛み合わせや開口の所見、日常の食事の実態を対応させましょう。
噛むのに相当の時間がかかる場合
書籍では、開口障害等を原因として、咀嚼に相当の時間を要する場合には、12級相当として扱うことも説明されています。
これは、単に食事をゆっくり取る習慣があるという意味ではありません。口の開きにくさ、噛み合わせの異常、咀嚼に関係する筋肉の働きの低下などと、食事に時間がかかることの医学的な関係を確認します。
食べ物の種類、刻むなどの工夫、事故前後の食事時間の違いを記録すると、状態を説明しやすくなります。ただし、記録のために硬い物を無理に噛む必要はありません。
顎の痛みや音だけで、咀嚼の等級が決まるわけではない
顎関節に痛みがある、口を開けると音がするという症状と、咀嚼機能が等級表の程度まで障害されていることは別の問題です。
書籍の裁判例でも、開口や咀嚼の状態、診断書と本人の説明の整合性などが検討されています。症状を軽視するのではなく、疼痛と運動・咀嚼の障害を分け、どの障害として評価するかを確認することが必要です。
飲み込みにくさは、嚥下機能の障害として確認する
噛むことと、飲み込むことを区別する
噛めていても、食べ物を飲み込む働きに障害が残る場合があります。嚥下には、舌や咽頭などの動きと、それらを支配する神経が関係します。
書籍では、舌の異常や咽喉を支配する神経の麻痺などによる嚥下障害について、その程度に応じて咀嚼機能障害の等級に準じ、3級相当・6級相当・10級相当として評価することが説明されています。
飲み込みにくいという訴えだけで等級を選ぶのではなく、原因、摂取できる食事の形態、医師による評価を確認します。食道の狭窄による通過障害など、原因によっては別の身体部位の障害として扱う場合もあります。
食事の工夫と医学的な指示を記録する
食べ物を細かくする、とろみを付けるなどの工夫をしている場合には、自己判断なのか、医療機関の指示によるものかを分けて整理します。食事の形態や量が変わった経過、介助の有無なども資料になります。
食事中のむせなどは担当医に伝え、安全な摂取方法を確認してください。申請資料を作るために、無理に通常の食事を試す必要はありません。
発音の障害と、かすれ声は分けて考える
発音できない語音の種類が問題になる
口や舌などの障害によって、発音が難しくなる場合があります。言語機能の認定では、口唇音・歯舌音・口蓋音・喉頭音という4種類の語音に分け、発音できない種類などを確認します。
言語機能の状態 | 主な認定上の内容 | 言語機能だけを評価する場合の等級 |
|---|---|---|
機能を廃した状態 | 4種類のうち3種類以上を発音できない | 3級2号 |
著しい障害がある状態 | 2種類を発音できない、または綴音機能の障害により言語のみでは意思疎通できない | 6級2号 |
障害がある状態 | 4種類のうち1種類を発音できない | 10級3号 |
ここでいう1種類の発音不能は、例えば口唇音に含まれる一つの音だけが苦手という意味ではなく、その種類に属する語音全体の発音ができないことを指します。
聞き取りづらいことと、認定基準上の発音不能は同じではありません。どの音が出せないのか、ゆっくり話せば発音できるのか、原因となる損傷は何かを、医師等の評価と合わせて確認します。
また、頭部の損傷によって言葉の理解や表出に問題がある場合は、舌や唇の動きによる発音の障害と混同せず、脳の障害を含めて整理する必要があります。
著しいかすれ声は、別の評価が問題になる
声帯麻痺や声帯の損傷などにより、声がかすれる状態を嗄声(させい)といいます。書籍では、著しいかすれ声について12級相当として扱うことが説明されています。
声がかすれることと、語音を作ることができない言語機能障害とは別です。声帯の所見、声の状態、治療後の経過を確認します。治療で行われた挿管などとの関係が問題になる場合も、手術・入院の記録を含めて整理します。
一時的な声の変化だけで、後遺障害と判断するものではありません。どの程度の障害が残存しているかが重要です。
複数の障害と、生活・仕事への影響を整理する
歯の障害と咀嚼・言語の障害を単純に足さない
口の障害には、咀嚼と言語の両方に障害がある場合の等級も定められています。例えば、両方の機能に障害を残す場合は9級6号、両方に著しい障害を残す場合は4級2号です。個別の等級を機械的に加算するわけではありません。
歯牙障害と咀嚼・言語機能障害がある場合も、歯の損傷から生じた同じ支障なのか、顎骨骨折など別の原因による障害もあるのかが重要です。補綴後の状態も踏まえ、重複評価にならないよう整理します。
資料には、歯ごとの損傷だけでなく、顎関節、噛み合わせ、舌や唇などの所見も反映させることが大切です。
治療費・等級・逸失利益は、それぞれ確認する
歯の治療費、後遺障害の等級、将来の収入減少である逸失利益は、同じ判断ではありません。高額な治療を受けたから等級が高くなるわけでも、等級が付けば当然に一定割合の収入減少が認められるわけでもありません。
書籍でも、歯牙障害についての労働能力への影響や、インプラント治療・メンテナンス費用の相当性などが、裁判上の問題として取り上げられています。
仕事への支障は、実際の業務に沿って具体化します。例えば、会話の多い仕事で発音や声に問題が出る場合には、担当業務の変更、説明に要する時間、周囲の補助などを整理します。
食事や会話の不便についても、「以前より大変になった」という説明だけでなく、どの作業に、どの程度の時間や工夫が必要になったかを記録します。できることや改善したことも含め、事実に即して伝えることが重要です。
申請前や非該当となったときに確認したい資料
歯科用の診断書と、損傷部位ごとの資料
書籍では、歯科について通常の後遺障害診断書とは別に、専用の書式が用意されていることが説明されています。申請時には使用する書式を確認し、歯の状態と口全体の機能の記載が不足していないかを見ます。
資料 | 主な確認点 |
|---|---|
事故直後の診療録・紹介状 | 顔面・顎・口の受傷、歯の破折や脱臼、当初の症状 |
歯科の画像・口腔内写真・歯式 | 損傷した歯の位置、欠損範囲、事故前後の違い |
治療記録・補綴の明細 | 抜歯、保存、被せ物、ブリッジ等の内容と対象歯 |
顎の画像・噛み合わせ・開口の記録 | 咀嚼障害の原因、運動の制限、治療後の残存状態 |
嚥下・発音・声に関する評価 | 原因となる損傷、機能障害の程度、食事や意思疎通の状態 |
後遺障害診断書・歯科用書式 | 対象となる歯数、症状固定時の障害、ほかの資料との整合性 |
食事・生活・仕事の記録 | 食べられる物、食事時間、会話の支障、介助や業務変更 |
歯の本数は、治療明細の合計だけで判断せず、歯式と損傷・処置の記録を照合します。歯式は、歯の位置と状態を図や記号で記録するものです。
非該当の理由に応じて不足を確認する
非該当や想定と異なる等級になった場合は、対象となる歯の本数が足りないのか、欠損の程度が不明なのか、咀嚼等の障害が医学的に確認できないとされたのかを分けて読みます。
例えば、口腔内写真では欠損が分かりにくい場合と、食べられない物の申告が診断書の記載と食い違う場合とでは、確認する資料が異なります。
異議申立てなどを検討するときは、未提出の画像や歯科記録がないか、担当医・歯科医師の説明を補う必要があるかを整理します。等級に合わせて食事状況を書き換えたり、認定を目的に不要な治療を受けたりすることは適切ではありません。
まとめ:歯の本数だけでなく、残った機能を確認する
口・歯の後遺障害では、認定対象になる歯の損傷と本数、噛む・飲み込む・話す機能の障害を分けて確認します。治療した歯の数、本人が感じる不便、診断名だけで等級が決まるものではありません。
事故前後の歯の状態、治療内容、顎や舌等の所見、日常生活や仕事への支障を対応させ、治療後にどの障害が残ったのかを明らかにしましょう。
本記事は一般的な情報を説明するもので、個別の診断、治療方針や等級認定を判断するものではありません。医療上の判断は担当医・歯科医師に、申請資料や損害賠償の対応は弁護士に相談してください。
この記事の執筆者
あきらB
交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け取れるよう、法律的な観点から初期対応のアドバイスや記事の執筆、内容の検証・監修を行っています。
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