この記事はこんな人におすすめ:
骨折や靱帯損傷の治療後も、膝や足首が曲がりにくい人
股関節の動きに制限が残り、歩行や階段、立ち座りに支障がある人
膝のぐらつきや足首の痛みが続き、後遺障害の申請資料を知りたい人
股関節・膝・足首の後遺障害では、関節が動く範囲、関節の安定性、痛み・しびれを分けて確認します。「歩きにくい」という同じ訴えでも、その原因や残った障害によって評価が異なります。
骨折や靱帯損傷という診断名、手術を受けた事実だけで等級が決まるわけではありません。本記事では、下肢の関節障害の基本と、診断書・画像・治療経過から確認したい点を整理します。
目次
股関節・膝・足首は「下肢の3大関節」として評価される
関節の動きの制限と、後遺障害等級の基本
膝や足首のぐらつきは、動揺関節として確認する
股関節・膝・足首ごとに確認したいポイント
可動域の測定と、痛み・しびれの評価を分ける
後遺障害診断書と一緒に整理したい資料
非該当への対応と、生活・仕事への影響の伝え方
まとめ:動き・安定性・原因を対応させて確認する
股関節・膝・足首は「下肢の3大関節」として評価される
歩きにくさの原因を分ける
脚の付け根の股関節、膝関節、足関節は、下肢の3大関節と呼ばれます。足関節は、一般にいう足首の関節です。
後遺障害では、治療後に残った関節の機能を確認します。ただし、脚の症状には、関節の動きの制限だけでなく、神経の障害、骨の変形、脚の長さの違い、足指の障害なども関係します。
残った状態 | 主な確認事項 |
|---|---|
膝や足首が曲がらない、伸び切らない | 関節の可動域、測定方法、制限の原因 |
膝が抜ける、足首がぐらつく | 関節の不安定性、靱帯等の損傷、補装具の必要性 |
歩くと痛む、しびれる | 症状の部位、医学的所見、事故からの経過 |
脚の長さや形が変わった | 骨の短縮・変形、関節障害との関係 |
足先を上げにくい、足指が動かない | 神経・腱の状態、関節や足指の機能 |
「歩けない」「長く歩けない」という説明だけでなく、何が原因で、どの動作が難しいのかを整理することが重要です。本記事は関節の機能障害を中心に扱い、下肢の短縮・変形や足指の障害は別に検討します。
治療中の制限と、残存する障害を区別する
骨折の治療で体重をかけることが制限されている時期や、ギプスを外した直後の状態が、そのまま最終的な後遺障害になるわけではありません。必要な治療と回復の経過を踏まえ、症状固定時に残る状態を評価します。
固定用の金属が動きの制限の原因になっている場合には、除去の予定や回復見込みも関係します。一方、金属が残っているというだけで、必ず抜去まで認定を待つという意味でもありません。
症状固定の時期は、治療内容や改善の見込み、担当医の判断に基づいて検討します。認定を急ぐために、必要な治療やリハビリテーションを自己判断で中止することは適切ではありません。
関節の動きの制限と、後遺障害等級の基本
1つの関節に障害が残った場合
関節が動く範囲を「可動域」といいます。自賠責では、1つの股関節・膝・足首について、主に次の区分があります。
等級 | 障害の区分 | 評価の基本 |
|---|---|---|
8級7号 | 1関節の用を廃したもの | 関節の強直、完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態など |
10級11号 | 1関節の機能に著しい障害を残すもの | 原則として可動域が健側の2分の1以下に制限される状態など |
12級7号 | 1関節の機能に障害を残すもの | 原則として可動域が健側の4分の3以下に制限される状態 |
健側とは、比較対象となる障害のない側です。右膝の障害であれば、原則として左膝と比較します。上位の等級に該当する場合には、その上位等級で評価されます。
「4分の3以下」は、動く範囲が25%以下になるという意味ではありません。比較対象を100とすれば、残る可動域が75以下になるという意味です。ただし、計算結果だけではなく、測定対象となる運動、測定方法、損傷と制限の対応も確認する必要があります。
この表は1関節の概要です。複数の関節や両脚に障害がある場合、下肢全体の機能が失われた場合など、すべての組合せを示しているわけではありません。
「用を廃した」は、日常語の「使いにくい」とは異なる
強直とは、関節が動かない、又はそれに近い状態です。健側の可動域の10%程度以下に制限された場合などが問題になります。
本人が「脚が使えない」と感じていても、それだけで8級7号になるわけではありません。関節が固まっているのか、神経の麻痺で自分の力では動かせないのか、痛みのため動作を控えているのかを区別します。
杖や車椅子の使用は生活上の支障を示す事情ですが、使用しているという事実だけで関節の等級が決まるものでもありません。
人工関節・人工骨頭には別の取扱いがある
人工関節又は人工骨頭を入れた関節では、可動域が健側の2分の1以下に制限されている場合は8級、それに該当しない場合は10級という取扱いがあります。
股関節の手術などで人工骨頭を入れた場合と、骨折部をプレート・スクリュー・髄内釘等で固定した場合は別です。「金属が入っている」という説明だけで判断せず、手術記録や画像で処置の内容を確認します。
事故による損傷のために手術が必要になったのか、事故前の疾病や障害が関係するのかも検討事項です。手術歴だけで事故との因果関係まで確定するわけではありません。
膝や足首のぐらつきは、動揺関節として確認する
動く範囲が狭い障害とは別の問題
動揺関節とは、関節の安定性が損なわれ、通常より大きく動いたり、異常な方向に動いたりする状態です。靱帯の損傷などが原因となる場合があります。
関節の曲げ伸ばしがある程度できても、体重を支えた際に不安定になることがあります。そのため、可動域だけを測って評価を終えるのではなく、不安定性の有無と程度も確認します。
ただし、本人の「ぐらつく感じ」だけで動揺関節と判断するのではありません。診察所見、画像、損傷部位などとの対応が必要です。
下肢では、硬性補装具の必要性が評価に関係する
書籍では、下肢の動揺関節について、次の取扱いが示されています。
残った状態 | 検討される等級 |
|---|---|
常に硬性補装具を必要とする | 8級相当 |
時々硬性補装具を必要とする | 10級相当 |
重い労働などの際に限って硬性補装具を必要とする | 12級相当 |
習慣性脱臼又は弾発膝 | 12級相当 |
「相当」は、その障害の程度を他の等級に準じて評価することを示しています。硬性補装具は、関節を支える硬い構造を持つ装具です。
市販のサポーターを使っているだけで、表の基準を満たすわけではありません。装具が医療上どの程度必要か、どの場面で関節を支えられないかを確認します。等級を意識して使用頻度を増やすのではなく、担当医の指示に従います。
また、事故で一度脱臼しただけで習慣性脱臼になるわけではなく、膝で音が鳴るだけで弾発膝に当たるわけでもありません。診断と残存状態を確認する必要があります。
検査は損傷部位に応じて選ばれる
書籍では、動揺関節の確認方法として、関節に負荷をかけて撮影するストレスX線や、膝の靱帯損傷に関する徒手検査などが挙げられています。
どの検査が適切かは、損傷部位や治療経過によって異なります。認定のために一律にすべて受けるのではなく、担当医に必要性を確認します。自分で膝や足首に強い力を加えて不安定性を試すことは避けてください。
股関節・膝・足首ごとに確認したいポイント
股関節:関節の状態と、人工関節等の有無
大腿骨頸部骨折などの後には、股関節の動きの制限や歩行時の支障が問題になることがあります。骨の癒合状態、関節の状態、手術の内容を確認します。
脚を前後に動かす、外側に開くなどの動きのうち、どこに制限があるかを測定します。靴下を履く、椅子から立ち上がる、車に乗り降りするなどの支障も、具体的な動作として記録すると整理しやすくなります。
骨盤の損傷、脚の長さの違い、腰や神経の問題が併存する場合には、それらをすべて股関節の障害として一括りにしないことが大切です。
膝:曲げ伸ばしと、不安定性を分ける
膝周囲の骨折、前十字靱帯・後十字靱帯などの靱帯損傷、半月板損傷などの後には、動きの制限、痛み、不安定性が問題になる場合があります。
膝が深く曲がらない場合と、歩行中に膝が抜けるようになる場合では、確認する機能が異なります。正座が難しいという説明だけでなく、曲げ伸ばしの角度、原因となる損傷、階段や立ち座りの支障を整理します。
靱帯再建などの手術を受けた場合も、術後に何が残ったかが重要です。手術をしたから必ず等級が付く、又は再建したから障害は残らない、と一律に考えることはできません。
足首:上下の動きと、痛みや神経の障害
足関節周囲の骨折や靱帯損傷の後には、足先を上げる・下げる動きの制限、荷重時の痛み、ぐらつきなどが残る場合があります。
足首の主要な運動では、足先を上げる背屈と下げる底屈の状態を確認します。階段を下りにくい、しゃがみにくい、歩行時に足先が引っかかるなどの訴えは、その原因を分けて確認します。
例えば、足先を自分の力で上げにくい場合には、関節自体の制限だけでなく、神経の麻痺なども問題になります。足指の障害や足部の別の部位の損傷を伴うときも、それぞれの状態を整理します。
可動域の測定と、痛み・しびれの評価を分ける
原則は他動運動による左右比較
可動域には、本人が自分の力で動かす自動運動と、検査者が外から力を加えて動かす他動運動があります。関節機能障害は、原則として他動運動の測定値で評価します。
ただし、神経麻痺などにより他動値だけでは適切に評価できない場合には、自動値を用いることが問題になります。本人に有利な数値を選ぶという意味ではありません。
反対側にも以前のけがや今回の事故による障害がある場合は、単純な左右比較が適切でないことがあります。その場合には、参考可動域角度との比較などを検討します。事故前の治療歴も担当医に伝えます。
曲げる角度だけでなく、伸ばす動きも確認する
同じ面の屈曲・伸展については、原則として両方向の可動域を合計して評価します。膝を曲げる角度だけ、足首を上げる角度だけを取り出し、直ちに等級に当てはめることはできません。
主要運動の数値が基準をわずかに上回る場合には、条件により参考運動の制限も考慮する取扱いがあります。境界に近い測定値は、関節ごとの測定要領や各運動の記録と合わせて確認します。
強い痛みがある場合には、そのまま担当医に伝えてください。自分で無理に関節を曲げたり、認定を意識して意図的に動きを抑えたりすることは適切ではありません。
痛みで動かしにくい場合は、原因を確認する
関節機能障害では、原則として、骨・靱帯・神経等の損傷や変化が動きの制限を説明するかを確認します。こうした身体の組織の損傷や変化を、器質的な原因といいます。
痛いため曲げにくいという状態について、角度が小さいことだけで関節の機能障害が認定されるとは限りません。一方で、残った痛み・しびれが12級13号や14級9号の神経症状として検討される場合があります。
関節の基準に達しなければ神経症状が自動的に認定される、という関係ではありません。症状を説明する所見、事故との関係、経過を別に確認します。CRPS等が問題になる場合も、診断名だけで結論づけません。
後遺障害診断書と一緒に整理したい資料
角度の数字と、それを説明する所見をそろえる
資料 | 主な確認点 |
|---|---|
事故直後の診療録・紹介状 | 受傷部位、当初の症状、受診までの経過 |
X線・CT・MRI等の画像と所見 | 骨折、癒合状態、関節面、靱帯等の損傷 |
手術記録 | 固定・再建・人工関節等の処置内容 |
可動域・リハビリテーションの記録 | 左右、自動・他動、測定方向、経時的な変化 |
不安定性に関する検査記録 | 動揺の程度、損傷部位との対応 |
補装具の処方・使用状況 | 必要な理由、使用場面、常時か特定の場面か |
後遺障害診断書 | 症状固定時の状態、測定値、他の資料との整合性 |
生活・仕事の記録 | 歩行、立位、階段、作業や援助の変化 |
検査や資料は、残った症状に応じて整理します。すべての検査を受ければ認定されるというものではありません。
数値が違う場合は、経過と測定条件を確認する
医療機関や時期によって測定値が違う場合には、自動・他動の区別、測定方法、治療による改善、症状の変化を確認します。変動があることだけで、直ちに記録の信用性が否定されるわけではありません。
一方、一度改善した可動域が大きく悪化した場合などは、なぜ変わったかが争点になることがあります。担当医の説明、リハビリテーションの経過、画像や神経の所見を対応させます。
数値の違いを隠したり、最も重い結果だけを取り出したりせず、事故から症状固定までの経過全体を整理することが重要です。
非該当への対応と、生活・仕事への影響の伝え方
認められなかった理由によって、補う資料は異なる
認定結果が想定と異なったときは、まず理由を確認します。
可動域が数値の基準に達していないのか
測定方法や比較対象に問題があるとされたのか
関節の制限・不安定性を説明する損傷が確認できないのか
補装具の必要性や、事故との因果関係が認められなかったのか
例えば、他動値が記録されていない場合と、事故前からの変形が主な原因と判断された場合では、確認する資料が異なります。異議申立て等では、判断理由に対し、未提出の記録や医学的説明で何を補えるかを検討します。
自賠責と裁判所の評価が異なる場合もありますが、訴訟にすれば必ず等級が上がるわけではありません。基準に達しない可動域制限を評価した裁判例も、その事案固有の事情を離れて一般化することはできません。
歩行・立位・階段などの支障を具体的に記録する
場面 | 記録の例 |
|---|---|
通勤・外出 | 連続して歩ける距離、休憩、移動手段の変更 |
立ち仕事 | 継続できる時間、座る必要性、担当業務の変更 |
階段・段差 | 手すりの使用、昇降に要する時間、介助 |
荷物の運搬・現場作業 | 重さや回数の変化、不安定な足場での制限、同僚の補助 |
家事・育児 | 買物、掃除、立ち座り、子どもの世話への影響 |
これは記録方法の例です。限界を調べるために無理に長距離を歩いたり、転倒の危険がある動作を試したりする必要はありません。普段の生活と医師の指示の範囲で、できること、難しいこと、改善したことを事実に沿って整理します。
等級は損害賠償の重要な資料ですが、逸失利益の額が等級だけで自動的に確定するわけではありません。職種、実際の業務、収入への影響なども検討します。
複数の障害は、関係を整理して評価する
同じ脚に関節障害、骨の短縮・変形、足指の障害がある場合には、各障害の系列や組合せ、派生関係を確認します。同じ損傷に通常伴う痛みなどを、独立した障害として無条件に重複評価するものではありません。
まずは各部位の状態を正確に記録し、そのうえで全体の等級と損害を検討することが大切です。
まとめ:動き・安定性・原因を対応させて確認する
股関節・膝・足首の後遺障害では、可動域の制限と関節の不安定性を分け、原因となる損傷や治療後の状態を確認します。歩きにくさや診断名だけで等級を決めることはできません。
画像、診断書、測定記録、補装具の必要性、生活・仕事への支障を対応させ、事故から症状固定までの経過を整理しましょう。非該当の場合も、判断理由に応じて不足する資料を検討します。
本記事は一般的な情報を説明するもので、個別の診断、治療方針や等級認定を判断するものではありません。医療上の判断は担当医に確認し、申請や賠償の進め方は具体的な資料に基づいて検討してください。
この記事の執筆者
あきらB
交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け取れるよう、法律的な観点から初期対応のアドバイスや記事の執筆、内容の検証・監修を行っています。
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