この記事はこんな人におすすめ:
鎖骨・肩甲骨・肋骨・骨盤の骨折後、骨の出っ張りや左右差が残った人
骨はつながったものの、肩を動かす、物を持つ、歩くといった動作で痛む人
骨の変形について後遺障害が認定されたが、仕事への影響を否定されている人
鎖骨や肋骨、骨盤などの後遺障害では、「骨の形」「関節の働き」「残った痛み」を分けて確認することが重要です。画像で骨折の跡が確認できるだけでは、変形障害の基準を満たすとは限りません。一方、変形障害に該当しなくても、別の障害として検討すべき症状が残っている場合があります。
また、骨の変形について等級が認定されることと、将来の収入減少に対する賠償である逸失利益が認められることは、同じ問題ではありません。本記事では、鎖骨・肩甲骨・肋骨・骨盤を中心に、認定基準、必要な資料、賠償上の争点を整理します。
目次
鎖骨・肩甲骨・肋骨・骨盤の障害はどう分類する?
骨の「著しい変形」と12級5号の認定基準
部位ごとに確認したい症状と資料
関節の動きの制限や痛みが残った場合
複数の骨や関節に障害がある場合の等級
後遺障害診断書・写真・画像をどう整理する?
非該当への対応と逸失利益の考え方
まとめ:骨の形と実際の支障を、それぞれ資料で伝える
鎖骨・肩甲骨・肋骨・骨盤の障害はどう分類する?
「その他の体幹骨」として扱う骨がある
後遺障害の認定では、鎖骨・胸骨・肋骨・肩甲骨・骨盤骨の変形を、脊柱とは別の「その他の体幹骨」の障害として扱います。
鎖骨は胸の上部から肩につながる骨、肩甲骨は背中の上部にある骨です。胸骨と肋骨は胸郭を構成し、骨盤は上半身を支えて脚につながります。骨盤の評価には仙骨も含まれます。
交通事故では、鎖骨骨折、肩甲骨骨折、多発肋骨骨折、骨盤骨折、仙骨骨折などの後に、形の変化や痛みが残ることがあります。肩鎖関節脱臼などで鎖骨の位置が変わっている場合も、残った状態に応じて検討します。
診断名だけでは評価する障害を決められない
同じ骨折でも、治療後に何が残ったかによって確認事項が変わります。
残っている状態 | 主に検討する障害・確認事項 |
|---|---|
骨が出っ張った、胸や骨盤の形に明らかな左右差がある | 体幹骨の変形障害、外観で分かる程度、画像との対応 |
肩や股関節が動かしにくい | 関節機能障害、可動域、制限の原因 |
骨折した場所やその周囲が痛む | 神経症状、診察・画像所見、症状の経過 |
骨盤の傾きで脚の長さが違うように感じる | 骨盤の変形と、下肢自体の短縮との区別 |
胸のけがの後に呼吸機能などの問題がある | 骨の変形だけでなく、胸部臓器の機能への影響 |
「骨折したから何級か」ではなく、「治療後にどの障害が残ったか」から考えます。診断名を確認したうえで、残存症状と検査結果を対応させる必要があります。
骨の「著しい変形」と12級5号の認定基準
外から見て分かる程度の変形が問題になる
鎖骨・胸骨・肋骨・肩甲骨・骨盤骨に著しい変形が残った場合、自賠責の後遺障害では12級5号が問題になります。
ここでいう著しい変形は、衣服を脱いだ状態で、変形や欠損が明らかに分かる程度を指します。医学的に骨の形が変わっていることだけでなく、外観上の程度が認定上のポイントになります。
確認する事項 | 認定を検討する際のポイント |
|---|---|
変形のある骨 | 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨、骨盤骨のどこか |
外観 | 衣服を脱いだ状態で、変形・欠損が明らかに分かるか |
画像 | 外観の変化を説明できる骨の変形・欠損があるか |
残存状態 | 症状固定時にどのような状態が残っているか |
事故との関係 | 事故による骨折や、その治療とのつながりが確認できるか |
レントゲンで分かる変形だけでは足りない
骨折後、レントゲンやCTで骨のずれや形の変化が確認できても、外観では分からないことがあります。画像上の変化だけで12級5号に該当するわけではありません。
ただし、これは画像検査が不要という意味ではありません。写真や診察で分かる外観と、骨の状態を示す画像は、それぞれ異なる役割を持ちます。骨以外の腫れや皮膚の傷を、骨そのものの変形と混同しないことも必要です。
また、見た目の変形が小さいからといって、痛みや関節の動かしにくさまで否定されるわけではありません。それらは別の基準に照らして確認します。
骨を移植するために採取した場合も確認する
事故によるけがの治療で、骨盤の一部である腸骨から骨を採取し、別の部位へ移植することがあります。この採骨によって骨盤に変形や欠損が残った場合も、変形障害の検討対象になります。
もっとも、採骨をした事実だけで認定されるものではなく、外観上の基準を満たす必要があります。さらに、採骨部の変形について等級が認定されても、歩行や仕事への影響が認められず、その変形による逸失利益が否定されることがあります。
部位ごとに確認したい症状と資料
鎖骨・肩甲骨:外観と肩の働きを分けて確認する
鎖骨骨折や肩甲骨骨折の後には、骨の突出、肩の高さの左右差、腕を上げるときの痛みなどが問題になることがあります。
変形の有無は写真や画像で確認し、肩の動かしにくさは可動域や診察所見で確認します。「肩が痛い」という一言だけでは、変形に伴う痛みなのか、関節の機能障害があるのか、神経の損傷が関係するのかを整理できません。
仕事との関係では、高い棚への上げ下ろし、荷物の運搬、腕を一定の高さに保つ作業など、具体的な動作を確認します。利き腕かどうか、反対側の腕で補えるかといった事情も、支障の説明に役立ちます。
肋骨・胸骨:骨折の本数と障害の数は同じではない
肋骨骨折後には、胸の変形のほか、体をひねる、荷物を持つ、深く息を吸うといった動作で痛みを感じる場合があります。
肋骨の変形は、骨折した本数や位置にかかわらず、肋骨全体を一つの障害として扱います。肋骨を何本も骨折したからといって、12級5号を本数分認定するわけではありません。
骨がつながった後にも痛みが続く場合には、痛む部位、経過、診察や画像の所見を確認します。骨癒合があることだけで痛みの評価が決まるわけではありませんが、痛みの申告だけで自動的に神経症状の等級が認められるわけでもありません。
胸部のけがに伴って呼吸機能への影響が残る場合は、骨の変形だけで説明できるかを含め、主治医に確認する必要があります。
骨盤:歩行・座位・股関節への影響を確認する
骨盤骨折後は、骨盤の変形に加え、立つ、歩く、座り続ける、階段を使うといった動作への影響を整理します。股関節の動きの制限や下肢の症状がある場合には、その原因と骨盤の変形との関係も確認します。
脚の長さに左右差があるように見えても、脚の骨そのものが短くなっている場合と、骨盤の変位によってそう見える場合があります。測定結果だけでなく、どこに変化が起きているかが重要です。
なお、骨盤周辺のけがで排尿などの機能にも問題が残っている場合、骨の変形とは別の障害が関係する可能性があります。症状を一括して「骨盤の後遺症」とするのではなく、関係する診療科の所見も確認します。
関節の動きの制限や痛みが残った場合
肩や股関節の機能障害は別の基準で調べる
鎖骨や肩甲骨のけがに伴って肩の動きが制限されたり、骨盤のけがに伴って股関節の動きが制限されたりすることがあります。
関節機能障害では、動かせる範囲だけでなく、その制限を説明する損傷や変化があるかを確認します。通常は反対側の関節との比較などを行いますが、測定方法や評価する運動方向にも決まりがあります。
たとえば、所定の機能障害の基準を満たす場合、肩では12級6号、股関節では12級7号が問題になります。程度によっては、さらに上位の等級を検討します。
ただし、「腕が上がりにくい」「脚を開くと痛い」という訴えだけで等級は決まりません。可動域の数値と、動きが制限される医学的な原因を合わせて確認することが大切です。
痛み・しびれは、原因と継続性を確認する
骨折後の痛みやしびれについては、局部の神経症状として12級13号や14級9号を検討する場合があります。
どの程度の医学的な裏付けがあるか、事故後から症状がどのように続いているか、治療によってどう変化したかなどが判断に関係します。画像だけで症状のすべてが説明できるとは限りませんが、診断書に「痛みあり」と記載されていれば足りるものでもありません。
また、変形障害に通常伴う局所の痛みは、変形障害に含めて評価される場合があります。別の神経損傷が存在するのか、変形から通常生じる症状なのかを区別しないと、等級の組み合わせを誤るおそれがあります。
複数の骨や関節に障害がある場合の等級
体幹骨の変形が2か所以上ある場合
鎖骨と肩甲骨など、その他の体幹骨に二つ以上の著しい変形が残る場合、同じ系列の障害として、併合の方法を用いて11級相当とする取扱いがあります。
この扱いでは、対象となる変形がさらに増えても、その他の体幹骨の変形だけで11級相当を超える扱いにはなりません。独立した別系列の障害を通常の併合で組み合わせる場合とは区別します。
鎖骨と肩甲骨は、それぞれ左右を別の骨として扱います。一方、肋骨は前述のとおり、全体で一つの障害として扱います。したがって、障害の数を数える前に、どの骨をどう扱うかを確認する必要があります。
変形と関節機能障害を併合する場合もある
骨の変形と関節機能障害がそれぞれ基準を満たす場合には、併合が問題になります。指定書籍では、次のような取扱いが整理されています。
障害の組み合わせ | 等級の扱いの例 |
|---|---|
鎖骨の著しい変形12級5号+肩関節の機能障害12級6号 | 併合11級 |
骨盤の著しい変形12級5号+股関節の機能障害12級7号 | 併合11級 |
その他の体幹骨の著しい変形が2か所以上 | 同一系列として11級相当 |
いずれも、各障害の基準を満たすことが前提です。同じ骨折から生じた症状でも評価を分ける場合がある一方、表に当てはめる前に、重複した評価にならないかを確認する必要があります。
同じ障害を別の角度から見ている場合は足し合わせない
変形障害に通常伴う局所の神経症状は、原則として別々に併合せず、上位の等級で評価します。
また、骨盤の変形によって脚が短く見えるものの、下肢自体には短縮の原因となる異常がない場合は、同じ障害を二つの面から評価していると考え、上位の等級を採用する取扱いになります。
症状の数が多いことと、併合できる障害が多いことは同じではありません。部位、原因、機能への影響を整理して判断します。
後遺障害診断書・写真・画像をどう整理する?
外観、骨の状態、機能を別々の資料で示す
症状固定の判断や診断書の作成に向けて、主治医と残存症状を確認します。次のように、資料が何を示すのかを整理すると、記載漏れや説明の不足を確認しやすくなります。
資料 | 主に確認する内容 |
|---|---|
後遺障害診断書 | 傷病名、変形の部位・程度、残存症状、関節の測定値など |
レントゲン・CT等 | 骨折の位置、変形してつながった状態、欠損、骨盤の変位など |
外観写真 | 衣服を脱いだ状態で分かる突出、陥凹、左右差など |
手術記録・経過記録 | 固定術、骨移植、採骨の部位、治療後の変化 |
診療録・検査結果 | 痛みやしびれの経過、神経所見、可動域制限の原因 |
仕事・生活の記録 | どの動作がどの程度難しいか、事故前後でどう変わったか |
写真は、変形部分だけの接写に加え、位置関係や左右差が分かるものが役立ちます。無理な姿勢で変形を強調したり、加工したりせず、実際の状態を確認できる形で残します。医療機関での撮影や提出方法についても相談するとよいでしょう。
必要な検査は傷病や治療経過によって異なります。申請のために特定の検査を一律に求めるのではなく、評価に必要な医学的事項を主治医に確認します。
痛みは、部位と動作を結び付けて伝える
症状の説明は、強さだけでなく、場所、頻度、誘発する動作、休息による変化などを整理します。
たとえば、「胸が痛い」だけではなく、「荷物を持ち上げると右胸の骨折部付近が痛む」「体をひねる作業を続けると中断が必要になる」など、実際に起きていることを伝えます。
記録の目的は、認定基準に合わせて症状を作ることではありません。普段困っていることを、診察や審査で確認できる情報にすることです。症状の変化やできる動作も含め、正確に記録します。
非該当への対応と逸失利益の考え方
非該当の理由によって見直す資料が変わる
変形障害が認められなかった場合は、通知された理由を確認します。外観上の基準を満たさないのか、資料から程度が分からなかったのか、事故との関係が問題なのかによって、検討すべき点は異なります。
画像の変形を繰り返し示すだけでは、外観上の程度が争点になっている場合の説明には足りません。一方、変形障害の基準を満たさなくても、痛みや関節機能障害の評価が十分に検討されたかを確認する余地はあります。
異議申立てでは、認定理由と医学的な資料を照合し、どの判断について、どの資料で再検討を求めるのかを整理します。追加資料があれば必ず結果が変わるというものではありません。
等級が認定されても逸失利益が自動的に決まるわけではない
逸失利益は、後遺障害によって働く能力が低下し、将来得られたはずの収入を失うことに対する賠償です。骨の変形では、等級そのものよりも、労働能力への影響の有無や程度が争点になることがあります。
指定書籍で紹介される裁判例でも、鎖骨や肋骨の変形に伴う痛み、作業上の制限などを踏まえて労働能力への影響を認めた例がある一方、採骨後の骨盤変形について、歩行などに支障がないことからその変形による逸失利益を否定した例があります。
「変形は仕事に関係しない」と一律に扱うことも、「12級だから一定の割合で必ず認められる」と考えることも適切ではありません。残った症状と、実際の仕事との関係を示す必要があります。
仕事への支障を具体的に説明する
確認したいのは、業務名だけでなく、実際に行っている作業です。
持ち上げる荷物の重さや高さ、運搬の頻度
腕を上げ続ける作業、体をひねる作業、長時間の座位・立位
作業速度や担当業務の変化、休憩や同僚の補助の必要性
配置転換、残業や歩合収入の減少、収入を維持するための追加の努力
給与明細や業務資料などと照らし、事故前後の変化を説明します。家事を担っている場合も、買い物、調理、掃除、洗濯など、実際の作業と支障を具体化します。
症状がどのくらい続くかも個別に検討されます。他の裁判例で認められた割合や期間を、そのまま自分のケースに当てはめることはできません。医学的な見通しと就労状況の両方を確認することが重要です。
まとめ:骨の形と実際の支障を、それぞれ資料で伝える
鎖骨・肩甲骨・肋骨・骨盤などの変形障害では、外観で分かる程度の変形があるかが重要になります。レントゲン上の変化だけでは12級5号の基準を満たさない一方、肩や股関節の機能障害、痛みなどを別途検討すべき場合があります。
申請に向けては、写真で外観を、画像で骨の状態を、診察や測定で機能への影響を確認します。複数の障害が残る場合は、併合できるものと、同じ障害として扱うものを整理する必要があります。
また、賠償の検討では、等級だけでなく、具体的な仕事への影響を示すことが大切です。認定内容や保険会社の説明に疑問がある場合は、診断書・画像・認定理由・仕事の資料をそろえ、交通事故を扱う弁護士に相談することで、検討すべき点を整理できます。
この記事の執筆者
あきらB
交通事故被害者の方が適切な賠償金を受け取れるよう、法律的な観点から初期対応のアドバイスや記事の執筆、内容の検証・監修を行っています。
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